自動組版とは

2017年03月09日

自動組版とは印刷におけるプリプレス(印刷前)工程、すなわち紙面のレイアウトを作る工程を自動化することを言います。

通常、ページのレイアウトを行う際は、原稿やレイアウトラフに従って人が作業を行うのですが、それをあらかじめ決めたデザインやルールに従ってプログラムで作成するということです。自動でレイアウトするわけですから「自動レイアウト」という言い方も使われます。「自動組版」という言葉自体は、この分野で多大な功績を残した平田憲行さんが最初に使った(本人曰く)そうです。

自動組版のメリット

なぜ自動組版をするかというと、そこには大きなメリットがあるからです。

自動組版による時間短縮のメリット

まず、人がすることをコンピュータにさせるのですから、人よりもかなり速くできます。場合によっては人が数日かかる作業を数分で完了することも可能です。

しかも、最初に命令するだけで後は放っておくこともできますから、帰り際に実行させておいて朝来たらできているといったことや、実行中は他の作業をするといったことも可能です。

自動組版による品質向上のメリット

次に、人と違ってコンピュータは間違いをしません。命令したとおりに動作しますので、そこに「不注意」「判断ミス」といったものはありません。つまり、その後の校正段階での作業を軽減できます。

なお、プログラム自体は人が作るものですからそこにミスは発生します。しかしながら、そこでミスがあった場合は「エラーで実行されない」「一律に間違っている」という結果が出るので、後から容易に判断がつきます。

自動組版によるコスト削減のメリット?

このように、自動組版では、レイアウト作業・校正作業にかかる人件費を軽減できます。そこだけを見るとコストの削減になります。

しかし、問題は開発費と維持管理費です。ここで新たなコストが発生します。そこにどれだけの費用が掛かるかで最終的に得になるのか、損になるのか変わってきます。ただ「これ以上事故を増やせない」ということで導入するケースも多くありますので、そこは総合的な判断になるでしょう。

今、自動組版の必要性が増してきている

このように自動組版では、時間短縮、品質向上、コスト削減のメリットがあるわけですが、このところ別の面で注目を集めるようになってきています。それが「新規受注」です。自動組版ができると新たな受注が見込めるということです。

それが「パーソナライDM」です。従DMといえば一律に同じ内容を印刷して発送するものが主流でした。しかしながら、マーケティング手法の進化(マーケティングオートメーション)やデジタル印刷機の機能向上により、一人ひとりに異なる内容DMを送付する「パーソナライDM」の需要が今後増加すると見込まれています。詳しくは印刷白書など日本印刷技術協会(JAGAT)の資料に情報があります。

この「パーソナライDM」を実現するには、デジタル印刷機に版を供給するために大量の異なるページを一気に作成する手段が必要です。そのためバリアブル印刷向けの自動組版が求められているということです。

自動組版を始めるためには

自動組版を行うには準備が必要です。必要なものは次の3つです。

  • 原稿(テキストや画像データ、データソースとも言います)
  • レイアウトのひな型(テンプレート)
  • 自動処理プログラム

これを揃えるのが実はハードルが高く、それ故に自動組版を断念したケースも多くあります。

まず「原稿」ですが、印刷物では普通、原稿は顧客が用意します。しかし、紙面にそのまま使えるものは多くありません。用字・用語が統一されていなかったり、数値の表現(3桁区切りとか)、縦組なのに横組の約物を使っていたり半角カタカナがあったりします。また、レイアウトを先行して決めていたら、文章量が指定の範囲にあるかという問題もあります。

レイアウトのひな型」は印刷会社内で作成することが多いので、比較的容易です。大変になってくるのは、原稿の体裁が異なるものが混じってくる場合です。そのような場合はひな形の種類を増やしたり、プログラムに複雑な処理を行わせるなどの工夫が必要になってきます。

自動処理プログラム」はレイアウトが単純なものであれば作成する必要はありません。例えAdobe InDesignでは「タグ付きテキストの取り込み」「MS Wordデータ(RTF)の取り込み」「データ結合」「XML読み込み」などの機能が標準であります。それらの機能で足りないとなったときに初めてプログラムの作成が必要になってきます。

ただそうなると従来の印刷業務知識ではまかない切れません。次のいずれかの手段をとることになります。

  • 自動組版ソフトウェアを導入する
  • 自動組版ができWebサービスを利用する
  • 専門業者に依頼
  • 自力で新しい技術を習得する

これらのうち上3つは外部事業者とコンタクトを取り必要があります。主な外部事業者は自動組版製品・サービス一覧にあります。

パッケージソフト・サービスの導入時の課題

会社として自動組版を導入したいと考える際、まず考えるのが自動組版ソフトウェア(パッケージソフト)Webサービスでしょう。ですが、これらのパッケージは「自動処理プログラム」のみを提供していることに注意してください。一部Webサービスでは「レイアウトのひな型」も提供していますが、それはサービス提供会社が提供できる範囲内に限定されていることも忘れてはいけません。つまり、パッケージやサービスを利用しても自動組版の全てが手に入るわけではないのです。

何を当たり前のことを、と言われそうですが、パッケージやサービスの選定にあたってもっとも忘れがちなのが「原稿(データソース)」なのです。実はパッケージソフトWebサービスの場合、「そのプログラムが処理できる形になったデータソースが必要である」ということが非常に重要です。つまり、自動組版プログラムが処理できない原稿の場合は、処理できるような形に変換・加工が必要なのです。この変換・加工にかかる費用は当然パッケージやサービスの価格に含まれていません。その部分は別途カスタマイズを依頼したり、あるいは別の業者に委託したりする必要があります。特にパッケージ製品は価格が高いので、一つの案件だけでペイできるという確信があれば別ですが、そうでない場合は他の形式のデータソースでも使用できるのかという点が焦点になってきます。「応用が利かないので特定の案件しか処理できない」「別の案件を処理しようと相談したらカスタマイズ費用が別途必要と言われて断念した」というのでは宝の持ち腐れです。

今はインターネットの時代です。IoTと呼ばれる、あらゆる機器がインターネットにつながる時代になりつつあります。原稿(データソース)が顧客Webサーバーなどのインターネット上にあることも珍しくありません。ですから、「データソース(顧客Webサーバーなど)に直接自動組版プログラムがアクセスして、データを取得・加工して自動組版を実行する」ということが可能な時代です。

それなのにパッケージソフトを導入すると、人が「データをダウンロード」して、「プログラムで変換・加工」して、「自動組版プログラムを実行」しなければなりません。これがパッケージソフトWebサービスの限界なのです。

これを打破するには「専門業者に依頼」するか「自力で新しい技術を習得する」しかないことにお気づきでしょう。専門業者の多くは印刷会社や写植から始めてシステム開発まで請け負うようになったところです。ただ数も少なく規模も大きくありませんので、マッチングしないケースがあるかもしれません。

長い目で見ると「自力で新しい技術を習得する」のが最良の方法です。大きなところでは皆そうしています。ですが、多くの印刷会社ではそれが難しい。そこには人材が必要ですし、仮にいたとしても育成しなければなりません。自力で習得できる人であればよいのでしょうが、そうそういませんし、いても時間がかかりすぎます。ということで我田引水ですが、それが私の仕事です。

自動組版には顧客の協力が不可欠

このように自動組版は「できると楽になるが、できるようにするにはハードルが高い」技術です。その中で最もハードルが高い部分は「顧客」です。顧客が協力できなければ自動組版はできません。そのため、自動組版システムを構築しようとした場合には、如何に顧客のメリットをを見出して協力してもらえるようにするかです。

残念ながらシステム屋さんでこの視点を持っているところは非常に少ないと感じます。「顧客まで巻き込まないとあなたのところの製品は売れないんだからもっと真剣に取り組みなさい」と苦言を呈したくなります。

で、顧客にどんなメリットを提示するか。例えば次のようなことが考えられます。

  • 入稿をもっと遅くできます
  • 校正出しまでの時間を短縮できます
  • ミスが起こりません

このように自動組版のメリットを顧客が享受できるメリットに置き換えて理解をもらうことです。このとき注意していただきたいのが、絶対に安くなりますと言ってはいけません。まだ開発前ですから。開発費は変動しますし、思わぬところでコストが発生する可能性があります。

また、入稿Web化して無人組版にするとさらに次のように言える場合もあります(どこまで言えるかは構築するシステム次第です)。
  • 入力補正を自動で行うので校正の時間が減ります
  • 入力したその場で校正を確認できます
  • いつでも夜中でも校正を作成できます
  • 校正回数は無制限です。気の済むまで何度でもできます

さらに管理システムを合わせて整備すると「どの出稿者がまだ校了にしていないのか、事務局で一覧できます」ということで大変喜ばれます。ただ、ここまでするともう自動組版の範疇を超えますので、プリプレス部門だけでは手に負えません。システム開発部門や外部のシステム会社に協力を仰ぐことになります。つまり会社として体制を整えて行うプロジェクトになります。そういった体制がとれるのかが実現の鍵です。