自動化のステージ

2017年03月09日

以下の項目は、別に順序があるわけではありません。「どこまでの範囲を自動化するか」という観点から自動化の段階を分類してみようという主旨です。範囲の狭いほうから順に並べています。なお、最後にある「バリアブル印刷(差し込み印刷)」については、完全自動組版に含まれるものなのですが、特殊な要素がありますので別建てにしています。

部分的自動化

InDesignということになるのでしょうが、スクリプトと呼ばれるマクロ機能を使用して、作業の一部を自動化するものです。

たとえExcelでデータ入力やデータの加工を行う際、VBAマクロを使用して作業を自動化するといったことと基本的には同じです。

具体的には主に次のような作業をワンクリックないしそれに近い手順で実行するものです。

  • 複数個所で繰り返し行う作業
  • 複雑な(間違いやすい)手順の作業
  • 複雑な計算が必要な作業
  • 間違いがないか確認する作業

発想と工夫次第では標準機能には存在しない機能が新たに追加されたかのようにふるまうものも作れます。

無料で公開されているものもありますので、それを利用することもできます。手前味噌ですが私も「ディInDesign」で公開しています。

自動流し込み(半自動組版)

ほぼ白紙の状態から、コンテンツを取り込んで配置するまでを自動化するものです。配置した後にレイアウトの調整等を手作業で行います。

コンテンツの格納形式によりそれぞれ名称がついていますが、すべて自動流し込みの範疇です。

テキスト自動流し込み

基になるコンテンツは書式付きテキストという形式で格納されます。書式は「タグ付きテキスト」や「リッチテキスト形式(RTF)」で、テキスト中にあらかじめ書式情報を付加しているものです。

データベース組版

基になるコンテンツはリレーショナルデータベース(RDB)や表計算ソフトのデータ、CSVテキストなどです。コンテンツに書式は含まれません。

準備としてレイアウトのひな型(テンプレート)を作成し、テーブルの各項目(フィールド)の配置先に書式等を設定します。

実行すると、ひな型を複製しながら、データベースの各行(レコード)のコンテンツを配置していくという仕組みです。InDesignでは「データ結合」という名称です。

XML組版

コンテンツXMLデータベースです。XMLタグとレイアウトでの定義済みの属性(スタイル)とを1対1で紐づけることにより、元のデータベースを維持しながら組版を行います。

レイアウト上で文字を修正しても元のデータベースに反映できる利点はありますが、反XMLデータベースを作成すること自体が難しい、データベース上で数値形式や日付形式などの場合は戻せないケースがあるなど、高度な知識と技術がないと難しいです。

自動流し込み+レイアウト調整

自動流し込みだけでは手作業での修正が残ってしまいます。また、データベースによっては表記の仕方とは違う形でコンテンツが格納されている場合があります。それを解消するため、データ取り込み時に変換を行ったり、配置後にレイアウト調整を自動で行ったり、また、XMLに組版情報を付加したりする必要があります。

個人でそこまでしようとすると、とても大変です。そのため、それを実現するためのソフトウェアがあります。というか、自動組版ソフトと銘打っているものは、これらの機能を持っていないと話にならない状況です。いわば自動組版ソフトの主戦場です。それぞれの製品の特徴については自動組版製品・サービス一覧で紹介しています。

完全自動組版

完全自動組版とは、「自動流し込み+レイアウト調整」の一種です。結果的に人がレイアウト調整を行う余地をなくしたもの、つまり、自動組版後にそのまま校正紙として提出できる状態になっていることを言います。自動組版の最高の結果(また目標)という意味でしばしば使われる用語です。

しかしながら実際に完全自動組版を実現するには自社刊行物でない限り難しいでしょう。原稿を厳密なルールで縛らない限り、イレギュラー(個別にレイアウト調整が必要な部分)は残ります。イレギュラー部分も定型化してプログラム中に入れ込むことができれば完全自動組版になりますが、イレギュラーということは例外的な処理になりますので、対応しようとすると費用がどんどん増えていきます。下図は私のイメージですが、細かいところに対応しようとすると急激に費用が増えていきます。

そのため、費用対効果を考えると完全自動化を目標とすることは必ずしも理にかなっていません。

 

無人組版

これは、今まで述べた自動組版とは概念が少し異なります。半自動組版にしろ、完全自動組版にしろ、そこにDTPオペレータが介在します。無人組版とは「DTPオペレータがいない」組版です。じゃあ誰が組版をするんだ、というと、それは出稿者(原稿作成者)です。出稿者が原稿を作成して[組版実行]ボタンをクリックするとコンピュータの中で自動で組版を行い、組版結果PDFなどで返してくれる、というものです。

自叙伝やエッセイ集などほとんど文字だけのものやアルバムなどほとんど写真だけのものは既Web上で出来上がっています。今更印刷会社の入る余地はありません。

ですが、文字と写真が混在したもの、文字主体であっても複雑なレイアウトが必要なものについては、印刷の基礎知識がないシステム会社では開発費が高くなりすぎて手が出ません。そこで印刷会社の出番になります。

無人組版のメリットは社内DTPオペレータが不要になるだけではありません。むしろ顧客側でのメリットが大きいことがあります。それは

  • 入力画面でチェックを行えば)入力補正を自動で行うので校正の時間が減ります
  • 入力したその場で校正を確認できます
  • いつでも夜中でも校正を作成できます
  • 校正回数は無制限です。気の済むまで何度でもできます

さらに管理システムを整備すると「どの出稿者がまだ校了にしていないのか、事務局で一覧できます」ということで大変喜ばれます。

印刷会社にとって一番のメリットは「顧客が逃げない」ということでしょう。無人組版は顧客にとって「やめたくてもやめられない。元に戻れない」状況を作り出します。

課題は人材です。自動組版ソフトウェアを使ってもよいのですが、そのソフトを使いこなすだけの技術を習得する必要があります。ソフトの機能では足りないものがあった場合、追加開発(カスタマイズ)で費用もかかります。それよりWebプログラムのできる人材、自動組版プログラムのできる人材の2人を養成したほうが、ほかの案件にも対応できるし有益ではないかと個人的には思っています。

バリアブル印刷(差し込み印刷)」

バリアブル印刷とは可変印刷とも言いますが、オンデマンド印刷において、部分的に内容を差し替えて印刷することです。差し替える部分は主にデータベースから取り込むのでデータベース組版の一種とも言えます。簡単なものは宛名印刷から、複雑なものはコンテンツをがらっと変えるものまであります。宛名印刷程度であれMicrosoft Wordでもできます。「差し込み印刷」という名称で、指定の位置AccessやExcelからのデータを差し込んで複数ページを作り上げることができます。

これが自動組版と似て非なるものというのはその工程にあります。自動組版であれば工程は導入前とほとんど変わりません。

しかしバリアブル印刷では基本的に組版後の校正はしません。差し込み前のレイアウトでの校正と、データベースの状態での校正の2本立てになります。その分かれた状態で校了にする必要があります。

そのため、綿密な調整が必要で、商業印刷が主体のところでは手が出しにくかった分野です。

ところが今この分野が注目を集めています。それは「パーソナライDM」の登場です。デジタル印刷機が大型化・高度化し、印刷機側での問題が解消されつつあります。また、マーケティング手法も高度化してより高い訴求力が期待できる「パーソナライDM」が求められるようになってきています。そのため、今後の伸びが期待されています。

比較的少量だったり単純なものは一人で作ることもできますが、そうでないものについては専用の製品に頼ることになります。製品は自動組版製品・サービス一覧で紹介しています。