理念

2017年02月20日

印刷業界は労働集約型産業から脱却しなければならない

私は中堅の印刷会社に27年勤務しました。若いときはプリプレス部門DTPの立ち上げや自動組版システムの構築をし、後半は自動組版もしつつ主にシステム管理を担当しました。その中で、印刷業界はとにかく労働集約型でシステム化には程遠い業界だと常々感じていました。原稿作成から仕分発送(配送)まで、それぞれの工程で複数の人間が関わり、先の工程では後の工程のことも考えて設計しなければならない。その中でとにかくミスが多い、手戻りが多い。

そのため、本の末尾に「乱丁・落丁はお取り換えします」と書いてあったり、正誤表が挟んであったり、訂正シールが貼られていたりしることが「当たり前」になっているほどミスに対する意識が低い。「まあ、人が死ぬわけでもないので大目に見てよ」って、それが生産性が低い原因だと思っています。

その中で値段のたたき合いをやっていたりするので、そりゃあどんだけ頑張っても給料上がらんわな。こんなんじゃもう人は来ないでしょう。

だから、業界挙げて生産性の改善に取り組まないといかんのです。そのために自分ができることは何か。それは今まで培った自動組版のノウハウを広く教えることで、自動組版に取り組む印刷会社が増えること。つまり組版の自動化により時間短縮・ミスの減少ひいてはコスト削減に繋がる会社が増えることです。そうすれば、印刷物が減少していく中でも、魅力のある業界として未来が見えるはずです。

いざ、自動組版へ。プリプレスはもっと楽になる

プリプレスの目的は何か。それは「版にインクの付く部分と付かない部分を決めること」です。それが印刷におけるプリプレス工程のすべてです。決めることができれば版は印刷機にかけられるし、決められなければ印刷工程に行かない。

決めるとはどういうことか。決める箇所数は、仮A4サイズの1色刷だとして、3000dpiであれ24,803 × 35,079約8億7000万個のドットがあるわけです。これらのドットのあるまとまった部分にインクをつけることにより、それが文字の形に見えたり、20%の網点に見えたり、点線に見えたりするわけです。

ではどうやって決めるのか。これを、一つ一つに手作業で指定していくのは端から無理な相談です。そこで人はいろいろ考えました。まず、文字の形を簡便に表現する方法としてフォントが考えられました。また、色の濃淡を表現する方法として網点が、さらに複数の文字を決まった方向に並べる手段として、レイアウトソフトが生まれたのです。

こうして今、プリプレスの手段としDTPが花盛りな訳ですが、皆さんのしていることはなんですか? 「インクの付く部分をもう少し右に寄せたら、脳に従来の記憶と異なった表現方法だと認識させることができて、商品を記憶させることができるだろう」とか「この部分は発信者が重要だと言っているので、大きくすることで記憶に残るようにしよう」など、見る人の脳の働きを想像しながら仕事をしている方は素敵だと思います。しかしながら、手順を教えれば誰でもできる仕事、注意事項(判断基準)を理解できれば誰でもできる仕事をしている方は勿体ないなあと思います。そんなの機械にさせてしまえばいいのに。

もうお分かりですね。そこなんですよ、自動組版がある理由が。フォントやレイアウトソフトは、創造的な仕事をする人も定型的な仕事をする人も必要なので商業ベースに乗り安価に提供できます。しかしながら自動組版は、それを必要とする人がレイアウトソフトが必要な人よりだいぶ少ない。しかも案件ごとに内容が違うからどうしても割高になる。

だからといって、機械にさせてしまったほうが良いものを、「お金がないから」「方法がわからないから」という理由で人が作業することに甘んじていてよいのでしょうか。いつかはこの状態から脱出しなければならないのではないですか?(残念ながら現時点では「時間がないから」という理由の場合には甘んじるしかありません。コンピュータのディープラーニングの進歩を見守っていてください)

脱出する手段はただ一つです。残念ながらお金は降ってきません。何とかして自らコンピュータにさせる以外ないのです。

そのお手伝いをするため、わたしはここに居るのです。