自動組版システム構築の考え方
自動組版システムを構築するに当たって、次のことを検討する必要があります。
①レイアウトルールの抽出・整理
②自動化すること・しないことの分別
③構築方法の検討
④投資対効果の検討(コスト計算)
⑤顧客の協力
このうち、①については、既存案件の場合にのみ発生します。④については別ページで説明します。
検討する順番は、おおよそ番号のとおりなんですが、③④⑤については並行して動いたり、順序が入れ替わることもあります。
以下、順に説明します。
①レイアウトルールの抽出・整理
既存案件の場合、既存レイアウトのレイアウトルールの洗い出しを行う必要があります。ここでのレイアウトルールとは、基本のレイアウト方法のことだけではありません。「自動化できるんじゃないか」と思った時点で、既に基本的なレイアウトパターンというのが見えているはずです。重要なのはむしろイレギュラーの処理です。
たとえば、文字数が指定の枠に収まらない場合にどう処理するか、画像の縦横比が画像枠の縦横比と極端に異なる場合にどうするか、といったことです。そういったものがない、あるいは出稿者にバックして修正してもらえるという場合であればここでの作業はほぼありません。
しかしそうでない場合は、それを自動化するためには、その手順や決まり事をプログラムに落とし込まなければなりません。そのため、「毎回その場で判断している」「人によって判断が異なる」といったものはプログラムの作りようがありません。
そのため、何よりも先にレイアウトルールを洗い出しましょう。ポイントは
- 決まっていないこと(都度判断しているもの)
- 作業者によって異なるルールがある
- 都度顧客から指示がある
です。最後のものがある場合には必然的に顧客を巻き込む必要があります。
②自動化すること・しないことの分別
整理が終われば、「ここは手順を共通化できる」「ここはどうしても個別に判断が必要」といったことが見えてきます。その結果、次のように分けることができます。
- 基本パターン(自動化すべき)
- 手順のあるイレギュラー(自動化可能)
- 手順がないが自動化したいイレギュラー(要相談)
- 都度判断せざるを得ない(手作業として残る)
もちろん、指標はこれだけではありません。「社内で完結する部分」「顧客を巻き込まないと解決しない部分」という判断が必要な場面も出てくるでしょうし、「難しそうだけれどここは優先して自動化したい」という部分も出てくるでしょう。
ただ、出てきた問題について、どこに分けたらよいか判断がつかないものもあるでしょう。そこは知識のある業者を交えての相談になります。
私はレイアウト工程の100%自動化は目指していません。100%自動化のためにはイレギュラーをゼロにしなければなりませんが、そうするとWebと全く同じことになります。その場合、検索できるWebの方がはるかに優位なので、印刷物として残っていくのは(ネット環境のない場所で使用するものでない限り)厳しいものがあります。
ですから、手作業で残る部分を最小限にすることを目指しての自動化を考えています。
③構築方法の検討
自動組版システムの構築には次の手段があります。
- パッケージ製品の導入
- Webサービスの利用
- 委託開発
- 自社開発
このうち上3つが外部業者になります。具体的な製品名や事業者についてはここに一覧があります。
次にそれぞれの特徴を見ていきます。
パッケージ製品の導入
パッケージ製品は買ってすぐ使えるように工夫されています。できるだけ多くのパターンに対応できるよう、設計に柔軟性を持たせ、また使いやすさを重視してインターフェイスやマニュアルも充実しています。手間をかけている分、相応の値段です。また、パッケージだけではイレギュラーに対応できないのでカスタマイズを視野に入れる必要があります。
パッケージ製品を導入するコツは、複数案件を処理することです。複数案件で行うことによりコスト削減効果が大きくなりますし、異なる案件での対応を経験することによって、さらに別案件での導入もしやすくなります。
Webサービスの利用
Webサービスのメリットは安いということです。多くが月額制ですので、必要な時だけ使えるというメリットもあります。また、使いやすいようインターフェイスを工夫しているところが多いです。ただ、名刺やアルバムなど特定の分野に限られたものが多いので、使い方が限られるという面があります。また、通信回線を使用するので、停電などの不安は残ります。
委託開発
既存の製品やサービスでは対応できなさそうな場合は委託開発する手段もあります。費用を掛ければほぼどんな案件でもある程度の形になります。ただし100%の自動化を保証するものではありません。使いやすいインターフェイスや充実したマニュアルも期待できますが、依頼内容によっては長期間に及んだり、費用がかさむ場合もありますのでよほど膨大な量でないと難しいでしょう。
自社開発
社内に開発できる人がいればコストも安く済みますので一番良い選択肢です。ただ、そういった人を確保したり育てたりすることが大変です。
自社開発を行う場合は必ず複数人での開発体制を整える必要があります。たまたまできる人がいたために、その人に任せっきりのケースも見かけますが、
- その人がいなくなるとどうにもならない
- その人に業務が集中したときに回避策がない
- その人に対する適正な評価ができない
など、デメリットしかありません。自動組版を武器として成功している印刷会社はほぼ間違いなく複数人で開発できる体制を整えています。そうすることで継続的に開発できています。
④投資対効果の検討(コスト計算)
こちらは別ページになります。
⑤顧客の協力
高度に効率化するなら顧客(入稿側)の協力が欠かせません。そのためには顧客に対するメリットを示す必要があります。ただ、「安くなる」とは言えない(実際にコスト減にならないことも多い)のでそれ以外のメリットが必要です。
一般的なメリットとしては次のものがあります。
品質向上
自動化以前では大量のコピー&ペースト作業を行っているケースが多くあります。その場合は、コピー時に先頭や末尾の文字が抜けたり、ペースト先を間違えるなど作業時のミスがつきものです。それを自動化することによりミスがなくなります。ミスがなくなるということはそれ自体品質の向上ですし、校正や直し作業の時間が短縮されるということになります。これは顧客の校正の負担減少になります。
ある会社では長年ミスに悩まされており、その解決のためだけに自動化を行ったという話もあります。
入稿の後ろ倒し
自動化することにより作業時間が大幅に減少します。導入直後はプログラムの調整(修正)や確認作業が発生しますが、数回実行後はおおよその作業時間が確定します。そうするとその作業時間に合わせて入稿のタイミングを遅らせることが可能になります。そうすることで顧客の原稿作成時間に余裕が生まれます。たとえば、初稿後に入っていたはずの訂正(価格修正など)を、入稿時に指示できるようになるなど、総工数を減らすことも可能になります。入稿後の訂正が多い場合の時に効果を発揮します。
オンデマンド校正(無人組版の場合)
無人組版の場合は、さらにメリットがあります。無人組版は文字通りそこに人が介在しません。そのため「いつでも、何回でも」校正が出せる状態になります。ある例では、それまでは校正が3回までだった案件を無人組版化したことにより、入稿者が行った組版回数は20~30回になり、また、深夜1時でも組版を行っていることが確認されました。
さらに、校正のための打ち合わせ時間も無くなりますので、入稿者にとっても楽になります。
また、複数の入稿者がいる場合は無人組版システムに管理機能を追加することで、管理者が進捗状況を簡単に把握するといったことも可能になります。ただしこれは仕組をどう作るか次第ですが。