ユーザーを捨てた代償は大きい

2019年10月11日

既にご存知の方も多いと思いますが、Adobeがベネズエラの全ユーザーのアカウントを停止すると発表しました。(2019年10月31日追記:停止日であ10月28日に新たな発表がされ、アカウントは再開されました。そして、リンク先の内容も更新されてしまいました)。ITメディアでは「こうしたことが対岸の火事でありつづける保証はない」と、GitHubの例も出してクラウドサービスの問題と捉えていますが、Adobeユーザーにとっての受け止め方は別でしょう。

それは「Adobeはトランプに従って売上とユーザーを捨てる判断をした」ということです。売上はともかく、「ユーザーを捨てる」判断については、これはメーカーとしてありえないでしょう。ユーザーとの信頼関係がなかったら、そんな会社の行く末は知れています。

Adobeの発表では「制裁が終わればアカウントは回復する」とありますが、回復されたから使用を再開するって人はいるでしょうか。Adobeのソフトが使えなくなると当然代わりのソフトを探してそちらを使います。仕事で使っているならなおさらですね。そして新しいソフトに慣れて、それで仕事が回り始めたら「アカウントを回復します」って言われても普通は戻らないですよね。


さて、問題の大統領13884と関連情報Google翻訳しながら読んだんですが、制裁は「ベネズエラ政府およびそれを代行する個人」を対象に「財産をブロック」するというもので、これだけ読んでAdobeがこれに従わなければならない理由も、全ユーザーを対象にする理由も分かりません。しかも「アドビ一般利用条件」には

法の選択と契約主体。お客様が北米(米国、カナダおよびメキシコを含む)にお住まいの場合、本契約はお客様と米Adobe Inc.との契約となり、本「条件」は米国カリフォルニア州の法律に準拠します。北米以外のお客様については、本契約はお客様Adobe Systems Software Ireland Limited(アドビ システムズ ソフトウェア アイルランド リミテッド)との契約となり、本「条件」はアイルランドの法律に準拠します。

となっており、南米であるベネズエラのユーザーはアイルランド法人との契約になるわけですから、大統領令の効力が及ぶわけがありません。(ちなみに日本の場合も一部の法人契約を除き、アイルランド法人との契約です。なぜアイルランドかといえば節税ですね。ただ、従業員はいて契約の問い合わせ対応も行っていますので、脱税目的ではありません)

ですから「アメリカの企業はこれに従え」と言われても「CCライブラリAdobe Fontsなどのサービスについては米Adobeが提供しているから止めますが、ソフトウェアの使用自体はアイルランド法人との契約なので従えません」と反論できるんじゃないのかなあ、と思うんですが。

認証サーバーとアップデートサーバーについては制限せず、その他のサーバーについて制限するということはできるはずです。Adobeの発表の中で該当者にはメールを送ったことが記載されていますので、該当アカウントは把握済みです。ただ、認証自体がサービスだと言われると(それ自体に利益供与があるとは思えないですが)ぐうの音も出ません。

裏で何が行われたのかは知る由もないですが、Adobeが大統領令を「米国企業とベネズエラの事業体および個人との間のほぼすべての取引およびサービスを禁止」(翻訳が間違っていたらとんでもないことなんだけども、私はこのように読みました)と捉えているということは、大統領令の文面だけではわからない何かがあるんだろうと思います。


振り返ってみれば、今年Adobeがユーザーを裏切ったことの多かった年です。私にとって2013Adobe ID大量流出以来の大きなユーザー裏切り行為です。ちなみ2013年のときに私のGメールアカウントも流出しました。使い続けなければならなかったので使っていますが、今でもたまにスパムメールが来ます。

ず2CC契約の値上げがありました。これは、1年半前に日本以外で値上げを行っていて、日本は多少猶予を与えられた形になっているので、単にタイミングが悪かったという話です。

5月に「#アドビ令和の変(#Adobe令和の変)」、つまりサブスクリプション契約は(製品にもよりますが)直近2バージョンまでしか使用できなくするという契約違反を行いました。私はパッケージ販売が終了した後に独立したので、パッケージは持っていません。実はパソコンのクリーニングのため年1回Windowsのクリーンインストール(初期化)を行っているのですが、次にこれを行ってしまうと現在インストールしていCS6が使えなくなってしまうという状況です。

このときは「ああ、パッケージを持っている人はうらやましいなあ」と思ったものですが、Adobeはなんと、CS6以前のアップデータの提供もやめてしまいました。しかも何の連絡もなしにです。私は直接は関係なかったので、これがいつ行われたのかは把握していません。おそらく「#アドビ令和の変」以降5~6月あたりにバッサリと削除されたのでしょう。

実はこちらの方が痛いというところも多いでしょう。アップデータを保存していなかったところは、新しPCに古OSとCS6以前のプログラムをインストールしても、バグだらけの初期バージョンからアップデートできないわけです。例えMacのIllustratorでいえば(鷹野さんがまとめてくれています。ありがとうございます)、初期バージョン(16.0)か16.0.1でバグフィックスを行い、16.0.3でRetina対応、16.0.4でもバグフィックスがあります。バグフィックスもさることながRetinaディスプレイに対応していない状態ですので、機種によっては以前使っていCS6とは別物になってしまいます。実質仕事では使えないでしょう。ですから、今稼働していPCが壊れ次第、使えなくなるのと同じことです。しかも、このことを知らずに使っている人も多くいるのではと思います。

9Adobeフォーラムがリニューアルされて多くの文書が散逸したことも痛いのですが、これは記事の主旨とは異なるので割愛します。

そして今月に入ってベネズエラの件です。ベネズエラのユーザーで、最も被害が少なかったのは誰かというと「パッケージを使用していて、かつアップデータも残してある」ユーザーです。実際にそんなユーザーがいるのかは不明ですが、サブスクリプション契約者は完全に使用する権利を奪われてしまいます。図らずもサブスクリプションの最悪の事態が起こったということです。


まあ、京都アニメーションに5万ドル寄付したりで悪いことばかりではないんですが、それでも今年行ったユーザーを裏切る行為は非常に大きい。私は怒っています。

人によっては「#脱アドビ(#Adobe)」を掲げたり、消費者庁に訴えたり、Adobe本社と掛け合ったりしています。こういう人たちの気持ちも分かります。私は、私の得意なところ(ソフトウェアの機能を調べて効率の良い使い方を提示する)で応援しているつもりです。

しかし私自身、Adobeのソフトウェアに依存する形で仕事をしていますし、Adobeユーザーの助けになることもしていきたいのです。そのためアドビのフォーラムでユーザーの質問に回答し、またプレリリースに参加してリリース前のバグをなるべくなくすように努めています。おかげさまでアドビジャパンの方にはよくしてもらったりするんですが(^^;

ただ、自分自身の備えも必要なところは否めないので、そのあたりが難しいところです。Photoshop、Illustratorの代替Affinity Photo、Affinity Designerで決まりなのですが、InDesignの代替になるソフトウェアがない。Edian WingやMC-Smartは個人で買えるような金額ではないんですもの。そこで思うのは「あー、EDICOLOR復活してくれないかなあ」。だいぶブランクがあるかmacOSへの対応が厳しいでしょうけど。今出したら売れるよ、きっと。


10月29日 追記

今月はもうひとつやらかしました。

Adobe Creative Cloudユーザー、750万件のデータが誤って公開される

2013年の流出のときは外部攻撃で、それに懲りて自社サーバーを運用しなくなった(AWSに移行)と思っていたんですが、今度は管理ミスのようで。

ちなみに私はこの会社のサーバー運用能力を全く信用していません。流出に加えて、ライセンスサーバーの運用停止Webサービス(PDF、Folioなど)の不具合を全く解消できない点などがあります。CCライブラリも昨年あたりからようやく使えるものになった感じです。

今回はクレジットカード情報の流出はなかったと言っていますが、そもそもクレジットカード情報を預けられるような会社ではないと思っています。


10月31日 追記

停止日であ10月28日に新たな発表がされ、アカウントは再開されました。

ぱっと見「よかった」と安堵する気になりますが、よく考えるとそんな単純な話ではありません。誰10月28日のアカウント切れ直前まで使おうと思いますか? 納期10月28日よりも後であったなら、当然その仕事で使うことはできませんよね。作りかけのデータは捨てることになります。納期10月28日以前の場合でも、納期が確定していてその後に使うことがないと分かっている場合でない限り、継続しがたいと思います。

ですから、発表した時点でもう取り返しのつかない事態になっているんですよ。