Affinity Publisher 1.8.4ベータでの日本語禁則処理を検証(あとがき)

前の前のエントリの続きです。表を見てわかるようAffinity Publisher 1.8.4ベータでは、禁則対象文字が非常に限定されていて、句読点類と括弧類のみです。中黒や繰り返し文字、カタカナ小字などは含まれません。

人によってはこれでは不十分だ、使えない、と思うかもしれません。しかし私はこれを非常に高く評価しています。というのも、このバージョンでは禁則対象文字を指定することができないからです。ユーザーが設定できない以上、余計なことはしてほしくないものです。

たとえば中黒ですが、これはカタカナの人名の間に使ったり、単語を並べるときに使う場合は行頭に来ないのが望ましい(必ずしも絶対ではないと考えています)ですが、一方で箇条書きに使う場合は必ず行頭です。

こういった、使い方によって異なる文字に対しては余計な処理がされていると、それは人をいらだたせます。追加する手間よりも解除する手間の方が面倒な印象を与えます。実際の手順でも、禁則を設定するよりも、禁則になっているものを分割する方が手間です。

  • 行頭禁則にする場合 対象の文字を選択して文字パネルの「区切りなし」をチェックする
  • 行末禁則にする場合 対象の前の文字を選択して文字パネルの「区切りなし」をチェックする
  • 禁則を解除する場合 対象の文字の直前にカーソルを立て、メニューのテキスト挿入スペースとタブ幅ゼロのスペースを順にクリックする

Affinity Publisher 1.8.4ベータ版での句読点類と括弧類のみという選択は、ほぼ例外なく禁則対象にすべき文字なので、禁則を解除するということはまずありません。これが、使い方が分かれる文字が含まれていると、ある文字は禁則対象にしたいので「区切りなし」の設定にする、ある文字は禁則対象から外したいので幅ゼロのスペースを入れる、という2種類の作業をしなければなりません。


今後の希望は、現在の設定はこのままで、禁則対象に指定したい文字を追加できることです。それも、追加パターンをいくつか持てるようにして「禁則文字セット」として切り替えるようにできることです。さらに、この「禁則文字セット」はファイルに保存・ファイルから読み込みができるようにして、異なる文書間で使いまわしができることです。

そうなれば誰か(?)が一般的によく使われる複数の「禁則文字セット」を作成して配布できるようになります。

これは開発元Serif社が日本語処理に詳しくなくても、ユーザーが困らない方法です。逆にその部分をユーザーに任せることによって、Serif社が別の重要な開発を行えるということにもなります。


さて、禁則処理ができたからといっても、まだまだ「読みやすい日本語」を組むには不十分です。少なくとも約物文字幅(こちらこちらの記事参照)、和欧文字間(こちらの記事参照)には対応してほしいところです。ただどちらもすぐには難しいですね。

約物文字幅を考える際、まず、日本語の文字は正方形であり、仮想ボディという概念がある、ということを理解してもらわなくてはいけません。これは将来、縦組を実装する際でも必須事項です。単90度横倒しにして左右中央揃えにするだけでは縦組にはならないわけです(そもそ90度横倒しにするということ自体、文字が正方形であるという前提の話です)。

今までベースライン、アセント、ディセントでプログラムを作ってきた人たちに、いきなり仮想ボディで作るんだよと言っても何をどうしていいかわからないはずです。

和欧文字間の場合は絶対に設定画面が必要です。少なくとも「ベタ」「8分アキ」「4分アキ」を選択できる(もっと細かい設定をしたい人もいるでしょう)ようにして、それに応じて文字配置を調整するという仕組が必要です。

なかなか先は長いです。

個人的な希望ですが、実は日本には死蔵されている組版エンジンがたくさんあります。あまり古いものは移植が難しいでしょうが、2000年以降に販売中止となったものには「EDICOLOR」「AVANAS BookStudio」「ELWIN」「UrbanPress」「RYOBI EP-X」などがあります。そういうところとタッグを組めるといいなあ。