InDesignの段落行取りとテキストの回り込みつきアンカー付きオブジェクトのバグ
某所より預かったInDesignデータを確認していたら奇妙なことに気づきました。同じサイズで同じ種類の画像(QRコード)を複数配置しているのですが、アンカー付きオブジェクトになっていたり、そうでなかったりしています。同じ構造のものを別の方法で作成しているというのは、普通は特別な理由がない限りやらないですよね。私は自動組版が本職なので、そういったところは余計に敏感なのかもしれません。
まあ、預かったデータのレイアウトを再現する必要もあったので、なぜそうなったのかを調べました。するとInDesignのバグにぶつかったということです。元データの作成者は、そのバグを回避するために、問題が発生した箇所の画像フレームをアンカー付きオブジェクトから単独のオブジェクトに変更したようです。アンカー付きではなくなったので、テキストの増減があった場合に手動で移動しなければならないんですが、きちんと対応する時間もなかったんでしょう。(ついでに言うとバグ報告もしてない。まあ普通の人はしません^^)
さて問題のデータは次のようなものです。
- フレームグリッドである(段落行取りが必要なので当然ですね)
- 段落行取りを使用している
- その段落にアンカー付きオブジェクト(設定はカスタム)がある
- アンカー付きオブジェクトにテキストの回り込みを設定している
わかりやすい例を作りました。文字サイズ10pt、行送り20pt、見出しの文字サイズは20pt、画像フレームサイズは50x50pt、回り込みは左側10ptです。
InDesignのバージョンは14.0.3(2019)および18.3(2023)で確認しています。このデータはここに置いてあります(バージョン14形式)。
ここで、アンカー付きオブジェクトを上に移動していきます。
変形パネルのYの値に注目してほしいんですが、100ptから95ptに変更しました。この時点で画面に再描画が行われて「少しもたつく」感じがあります。
さらに上に移動します(Yの値を94.9pt)。
このように真っ白になってしまいました。元に戻そうと変形パネルのYの欄に数字を入力しようとしても、跳ね返されてしまって入力できません。この状態は画面描画だけの問題ではなく、このままPDFに書き出しても真っ白のままです。
元に戻すには「取り消し」を実行するか、マウスで画像フレームを選択して下にドラッグすることです。見えていないですが、当てずっぽうでやってみればできます。
預かったデータでは、このバグに引っかかるところの画像フレームのアンカー付きオブジェクトを解除していましたが、上に書いたようにこれではテキストの増減で画像フレームを移動しなければなりません。
それはあまり賢くはないので、「段落行取りを使わない」方法の方がよいです。見出しの段落に対して
- 段落行取りをオフ、行数は自動
- グリッド揃え「なし」
- 段落前のアキおよび段落後のアキを指定
を設定することで同じ体裁にできます。この場合はバグは発生しませんし、「少しもたつく」感じもありません。
ですからこれは「段落行取りのバグ」と言えます。
段落行取りに限らず日本語版InDesignにしか存在しない機能(縦組、フレームグリッド、圏点、割注、斜体、など)は、ユーザーがほぼ東アジアに限られるため、相対的にユーザー数が少なく、他の機能に比べてバグの発見率が低いと思われます。また、英語で報告しなければならないため、報告のハードルも高いという問題もあります。さらに、頑張って報告しても、対象が日本語版に限られるため、修正の優先順位も低くなるような気がします。ですから私も最初からほぼ諦めてて、よほど回避策がない状況にならない限り報告していないというのが現状です(とにかく英文を書くのがしんどい。機能の英語名を調べるところから始めなければなりませんので、英語版InDesignを使っている人に比べて倍以上の労力がかかると思います)。
ですから今回の場合も、段落行取りを使わないことで逃げられるので、今のところ報告しないです(よほど金銭を伴う依頼がない限り)。残念ながら。
そういうことで日本語版独自の機能については、まだ未知のバグがある可能性が高く、複雑なことをするには安心できないですね。特に自動組版は事前に設計して作り込む必要があるので、フレームグリッド自体使いにくいということになります。
そういったこともあり、私は普通の組版でもフレームグリッドを使わなくなりました。ただ、設計しやすいのでレイアウトグリッドは使います。新規ドキュメント作成時は、レイアウトグリッドを選びます。テキストフレームを自動生成する場合は、生成されたのフレームグリッドをテキストフレームに変更します。そうすることで文字位置の目安としてはレイアウトグリッド、実際に文字を流す部分は(フレームグリッドではなく)テキストフレームとなります。ですから字取り・行取りは使えませんが不便は感じません。「レイアウトグリッドにスナップ」はオンにしているので、画像フレームの配置は特に問題ないです。私にとってはこれが現時点での最適手順になっています。
日本語版独自の機能で私が今一番問題にしているのはフレームグリッドにおける段落の境界線と囲み罫の位置の問題です。これは以前取り上げ、UserVoiceにも投稿があるんですが、いまだに進展がありません。機会を見て再度プッシュしていかなければならないと思っています。これは上のバグと違って逃げる手段が全くないので、Adobeの方で直してもらうしかないんですよ。