InDesignに欲しい!Affinity Publisher機能(5)PDFの配置
InDesignやIllustratorからAffinity Suiteに乗り換えた際に戸惑うことのひとつに、PDFファイルの配置があります。InDesignやIllustratorでは配置の際のオプションで、配置するページやトリミングを問い合わせるダイアログが出るのですが、Affinity Suiteの場合は出ません。そのため、機能不足なのかと思ってしまうのですが、心配ありません。Affinity Suiteの場合、配置後に設定を変更するのです。
これはその設計思想の違いからくると思われるのですが、Adobeソフトの場合は先に設定してから実行することが多いのに対し、Affinity Suiteの場合は実行後に設定値を変更するということが多いような気がします。
ここでは、PDFファイルの配置について、InDesignとAffinity Publisherの比較を行っているのですが、実はAffinity SuiteでPDF配置を行う際はいくつかの問題点や注意点があって、現時点では必ずしもAffinity Publisherがいいよとは言えません。注意点については後半で書くことにして、まず手順の違いについて見ていきます。
Affinity Publisher / Designerで、PDFファイルの配置を実行すると、ファイルを選択するダイアログが出ます。InDesignやIllustratorではその後、ページ指定とトリミング指定のウィンドウになるのですが、PublisherやDesignerでは出ません。読み込み時間を少し待って配置カーソルになります。つまり、先に配置してしまうんです。そして、その後に設定を変更します。配置後はPDFファイルが選択された状態になり、ツールバー(Photoshopでいうオプションバー、Illustrator、InDesignでいうコントロールパネルに相当)にオプションが表示されます。
ページ指定は「スプレッド」、トリミングは「ページボックス」という項目になります。トリミングの値としては「トリムボックス/TrimBox(仕上がりサイズ、デフォルト)」「裁ち切りボックス/BleedBox」「切り抜きボックス/CropBox(InDesignでは印刷可能領域)」「アートボックス/ArtBox」「メディアボックス/MediaBox」を指定できます。
この配置した後にページやトリミング方法を指定するというのは、実は変更に強いというメリットがあります。あとからページやトリミング方法の変更があった場合も、ツールバーから変更するだけで済みます。InDesignでは、ページやトリミング方法に変更があった場合は基本的に配置し直さなければなりません。この差は大きいです。これだけでもInDesignに欲しいです。
さらにPublisherの方が圧倒的に楽な場面があります。
それは1つのPDFファイルの複数ページを配置しなければならない場合です。たとえば、別ソフトで作ったPDFファイルに対して、共通の柱やノンブルを入れたりして最終の印刷物にすることがあります。あるいはIllustratorでページの代わりに複数のアートボードを使用してレイアウトしているものを、出力のためにページレイアウトソフトに貼り込む場合です。実はInDesignはほとんどその使い方しかしていないというところもあるでしょう。
InDesiginの場合、各ページにPDFファイルを配置しなければなりません。スクリプトを使うことを知らなければ、ページの数だけ配置を繰り返さなければなりません。スクリプトを使った場合でも、1ページから順番に配置するのであれば問題ないですが、途中のページを飛ばしたり、あるいはページの差し替えがあった場合には使えません。
これに対してPublisherでは、InDesignと同様の手順もできますが、配置を1回または2回(見開きの場合)にすることもできます。それは、マスターページに配置するのです。そして、各ページではマスターページの配置PDFをオーバーライドして、ページ指定を変更します。ページの数だけファイル選択ダイアログを開き、配置先を指定する(しかも普通は一発で位置決めできない)のに比べて、かなり楽です。
ただ、Affinity Publisherのオーバーライドの手順が少しややこしいので、そこが少し難点ですね。手順は次のようになります。
- レイヤーパネルでマスターページをクリック
- 右クリックで「切り離しを編集」をクリック(ツールバーにもあります)
- オーバーライドしたいオブジェクトをクリック
- ツールバーでページを変更
- [終了]ボタンをクリック(「切り離しを編集」を終了する)
InDesignだとCmd(Ctrl) + Shift +クリックなので、それに慣れてる人は拒否反応があるかもしれません。Affinity Suiteの手順は、大事なところはうっかり間違って実行しないように設計されている、と考えてください。Adobe製品はその点がルーズなのが特徴で、そのためトラブルを起こしやすい設計になっています。
Affinity Suiteにいずれスクリプト機能が搭載されれば、この辺も楽になると思います。
PDF配置の問題点・注意事項
さて、ここから問題点・注意事項になります。確認しているバージョンは1.7.3ですので、後のバージョンでは変更されているかもしれません。
保護されたPDF
パスワードで保護されたPDFを配置することはできません。ただ、挙動に問題があって、PDFファイルを選択した後、何も起こりません。普通は「保護されたPDFファイルは配置できません」とかのメッセージが出るんですけど。
Publisherの2ページ目以降の場合の表示
Publisherドキュメントの1ページ目に配置したPDFは、ページの変更がすぐに表示に反映されるのですが、2ページ目以降に配置した場合に、ページの変更がすぐに表示には反映されません。別のページへ移動したりして、再描画されると反映されています。
Designerでは複数ページのPDFの場合にトリミング指定ができない
Affinity Designerでは少し変わった挙動になります。複数ページのPDFファイルを配置した場合、ツールバーに「ページボックス」の項目が表示されません。逆に1ページだけのPDFファイルの場合は「スプレッド」の項目が表示されません。後者はなくても問題ないんですが、前者の方は困る場合があるかもしれません。でもPublisherを持っていれば、メニューの「Publisherで編集」から一時的にPublisherを使えばいいので、大した問題ではないです。
PDF中に、PCにないフォントを使ってはいけない
これが非常にまずいんですが、PCにないフォントを使っているとテキスト部分の表示がおかしくなります。どうも、表示用にPDFを解析しているようで、代わりに標準のフォントが使用され、文字送りがずれます。表示だけの問題かなと思ったら、出力時にも反映してしまっているので、非常に困った問題です。上に手順を書きましたが、使用できる範囲はごく一部に限られてしまいます。
ドキュメントを編集はちょっと危ない?
ツールバーを見てお気づきかと思いますが、[ドキュメントを編集]というボタンがあります。ここをクリックするとPDFを編集できます。ただし、これは危険です。実行するとPDFが解析されて編集できるようになるんですが、これは一昔前のAcrobatのTouchUpツールと同じ程度の解析能力です。テキストは1行ずつに分割されて、和欧間に半角スペースが入っているなど、とても怖くて使う気にはなりません。
ということで、いいところまでは行ってるんですが、惜しい点があって現時点ではAffinity Publisherを使うことはできません。素直にInDesignを使いましょう。
でも、いいところもあるので、そこは是非InDesignに取り入れて欲しいなあ。