Affinityのアートボードはレイヤーです

これはAffinity by Canva Advent Calendar 202520日目に記事です。前日はベーコンさん、明日はなたのさんです。

なおこの内容は『Affinity解体新書』(仮称。そもそも出るのか、出せるのかすら未定)に含まれます。


今回Affinityのデータ構造の中核の話です。ずばり、「Affinityのデータはレイヤーでできている」ということです。アートボードもレイヤー、ページもレイヤー、マスターページもレイヤー、およそドキュメント上に表示されるものはすべてレイヤーなのAffinityです。全部話すと長くなるので、今回はアートボードに絞って話をします。

そもそもアートボードという概念がいつからあったのかは知りません(さすがにすべてのアプリケーションを調べることはできない)が、Illustratorで導入されたの2008年10CS4(14.0)からです。そしPhotoshop2014年6CC2014(15.0)からになります。Affinity2015年7月のバージョ1.4からの対応になります。まAffinity Designerが登場したの2014年12月(1.0)ですから、当初から予定されていたものの実装が遅れていたということでしょう。なお、バージョ1.4の時点でWindows版はまだベータ版だったので、Windowsの正式版でいうと“最初から搭載されてた”といえます。

の3つのアプリケーションのアートボードを比較すると大きな構造の違いがあります。それは「レイヤーパネルに表示されるかどうか」というものです。


Illustratorはレイヤーパネルには表示されませんので、レイヤーとアートボードは無関係です。レイヤーパネルが垂直方向の重なりを表現するものとすると、アートボードは水平への広がりになります。(図Affinityの等角投影で作ってます)

レイヤーパネルに表示されませんから、別途アートボードパネルがあります。アートボードは重ねることができ、重なった両方のアートボード上にあるオブジェクトは両方のアートボードに含まれます。下の図は以前の記事の図ですが、アートボードを3枚重ねています。印刷したPDFにすると3ページとなり、2ページ目(アートボー2)と3ページ目(アートボー3)の内容は1ページ目(アートボー1)に含まれます。アートボー2、アートボード3内にあるオブジェクトはアートボード1内にもある、ということですね。


これに対しPhotoshopとAffinityでは、アートボードはレイヤーパネルに表示されます。左Photoshopのレイヤーパネル、右(黒いほう)Affinityのレイヤーパネルです。レイヤーパネルに表示されるということは、つまりレイヤーなのですよ。

同じですね。つまり、アートボードはレイヤーと同一の扱いなので、Illustratorのようなレイヤーとアートボードが水平垂直にクロスするというイメージにはなりません。アートボードごとにレイヤーが完全分離されることになります。

そのためオブジェクトは複数のアートボードに属することはできません。Illustratorのようにアートボードを重ねても、両方のアートボードに表示されるオブジェクトというのは存在できません。ただし、「どのアートボードにも属さない」レイヤーを作ることはできます。

そしてもうひとつ特徴的なのが、「アートボードはクリッピングマスクである」ということです。つまりベクター図形と同じ属性を持っています(特Affinityはベクター図形そのものといえます。後述)。そのためオブジェクトの一部がアートボードの外に出たら、そこはクリッピングマスクの機能によって見えなくなります。頑張って図の中に入れてみたのがアートボード3の赤い円です。Illustratorでは円全体が表示されますが、PhotoshopおよAffinityではアートボードからはみ出た部分は表示されません。

Illustratorに慣れている人はここ(アートボードからはみ出た部分が表示されない)が戸惑うポイントのひとつです。時折このことAffinityに文句を言う人がいるんですが、だったPhotoshopにも文句を言え、という話ですね。


そういうわけで、同じ「アートボード」という名称であってIllustratorとPhotoshopやAffinityとは仕組みが全然違うわけです。そのたIllustratorのアートボード1000までという制限(CC2017まで100)がありますが、PhotoshopやAffinityの仕組みでは制限を設ける理由がないというのがわかると思います(実際の上限はあるんでしょうが、意識させられることはない)。

AffinityとPhotoshopのレイヤーはそもそも、ラスター画像(ピクセル)を重ね掛けするための機能なので、アートボードもそれに従えば同じ構造にならざるを得ないということになります。これに対しIllustratorのレイヤーは単なるグループなので構造上の意味は特にありません。

私が何回AffinityとIllustratorを比較して解説するのはここに理由があります。今月に入って最初に書いた記事(Affinityの黒矢印は「選択ツール」じゃありません!)でもあるように、AffinityはPhotoshopとかなり近いです。だかPhotoshopユーザーは迷うところが非常に少ない。それに比べIllustratorは発想が全く別なので、IllustratorAffinityに移行しようとするとかなり戸惑うのです。

一方、IllustratorやAffinityにあって、Photoshopにないものがあります。それは裁ち落とし(Bleed)です。まあ、これはアプリケーションの性質上、仕方のない部分と言えるでしょう。

まとめるAffinityのアートボードは次の性質があります。

  • 閉じた図形である
  • クリッピングマスクである
  • 裁ち落としがある
  • マージンがある(Illustratorにはない)

そのためレイヤーパネルを見るとクリッピングマスクと変わらないように見えます。レイヤー左端のアイコンだけが頼りです。


最後に、Affinityならではのアートボード機能を紹介して終わります。それは「閉じた図形であれば何でもアートボードになる」ということです。IllustratorもPhotoshopもアートボードの形は長方形です。しかAffinityは円でもアートボードになります。

 

この柔軟性Affinityです! 円形のアートボードは缶バッジやコースターをデザインするのに都合がよい(かもしれません。やったことないので)。また、長方形であっても角に丸みを持たせたりできます(何人か角丸の名刺を頂いています)。

これは便利か? 長3封筒展開デザイン用アートボード。

こんな風に好きな形のアートボードを作って楽しめます。

ただし裁ち落としとマージンが長方形にしかならないのが残念。PDFに書き出そうとするとこうなります。

裁ち落としを含めない場合

裁ち落としを含める場合

このあたりをうまく処理(裁ち落とし幅13mmとかにしてアートボード外にトンボを描く? アートボード外に白を置いておく?)できれば、Affinityの自由形アートボードはかなり使えると思うのですが、あとは現場の皆さんにしかできないのでそこはお任せします。