Illustrator UserVoiceが炎上?した件

今回Illustratorの話題です。2024年7月23日現在、Illustratorの最新版はバージョ28.5です。ただ、このバージョンはいくつかのバグがあり、私28.4.1のままにしています。

ラスタライズの効果が変わる

2階調の画像を埋め込むと反転したような表示になる(Venturaの環境GPU表示の場合)

パス上文字ツールで作成した文字JPEG書き出しをすると消える

このうち最後のものはベータ28.7で修正されているようです。


そのベータ28.7の新機能として開発チームUserVoiceに回答した件で、批判的なコメントが殺到しました。私はこれが「炎上した」と思ってタイトルを付けたのですが、それは言い過ぎと思われる方もいるかもしれません。なので「?」付きです。炎上かどうかの判断は皆さんが該当スレッドを見て判断していただけたらと思います。当該スレッドは次のものです。

Make Illustrator multi threaded on CPU


まず基本的な解説をしますね。

昨今のパソコンCPUはマルチコアやマルチスレッドといって、複数の処理を別プロセスで同時に行うのが一般的です。次の記事がわかりやすかったので(ちょっと古いですが)参考にしてください。

CPUの基本】図解でよくわかる「マルチコア / スレッド」の意味

ここでAdobe Premiereの例を挙げていますけど、今回UserVoiceの投稿は「Illustratorもマルチスレッドに対応してよ」という要望です。

IllustratorやInDesignは、ごく一部の機能を除いてマルチコア/マルチスレッドには対応していません。そのため4コアCPUのパソコン16コアCPUのパソコンIllustratorの速さを比較しても同じになります。どれだけコア数を増やしても1コアしか使うことができないので速くならないんですね。もし今、Illustrator / InDesign用途に新しいパソコンを検討しているのであればコア数を気にするのは無意味です。クロック数とメモリ容量が実行速度を決めます。まずこれは基礎知識として覚えておいてください。

前の段落で「ごく一部の機能を除いて」と書きましたが、その機能は「保存・書き出し・プリント」、つまりバックグラウンドタスクです。

Illustratorでは環境設定に設定箇所があり、オフにすることが推奨されます。オンにしているPDFデータ(保存や書き出し)作成時に、PDF部分とネイティブ部分が異なることがあるためです。InDesignでは環境設定にはないので、アプリケーションフォルダに「DisableAsyncExports.txt」を入れて無効にします。これも有効だとおかしくなる場合があるので無効にすることを推奨します。つまり別プロセスで実行(マルチスレッド)する部分はあるのですが、それを使ってはいけないという、残念な状態なんです。

ということで結局「マルチコア/マルチスレッドには対応していません」と言い切っOKです。


じゃあ、今回何が起こったのか、という話をします。

事の始めはこの投稿の回答とステータスが変更されたことでした。私はこの投稿に投票して、ステータスの変更があった際にメールで通知が来るようにしていますので、変更をほぼリアルタイムで把握できます。(ただしメールは英文なので変更内容の確認には時間がかかります)。ステータスについては以前まとめていますのでそれで概要を把握してください。なお、この記事は古くなってしまい、そこには載っていないステータスが使われているものもあります。

変更(メールでの日時)は7月5日(金)21:17で、ステータスが[Started](開始済み)から[Done (In Beta)](完了 (ベータ版))になりました。そのときの回答がこちらです。

As promised, we have been working tirelessly to improve the performance of Illustrator and have launched a slew of improvements recently :

  1. Faster pan and zoom : Enjoy upto 10X faster pan and zoom giving you a smooth and buttery navigation experience; available in all the public builds starting v28.3
  2. Working with linked images (pngs, jpgs and tiffs) is now significantly faster : Operations such as placing images, transforming them, applying effects to them is now upto 5X faster; available in BETA build starting from v28.7
  3. General improvement in the application’s responsiveness : By making background running tasks such as document back-up, snapping computations more efficient we are leaving more power for your computer to do other tasks; available in BETA build starting from v28.7

As these changes are fundamental and can have unintended consequences, we urge you to try out these changes and share your feedback in the slack channel or here.
We will continue to make Illustrator more performant and for that we need to understand your pain points better. So we request you to please fill this quick survey form :(省略)

 

日本語訳)

約束どおり、Illustrator のパフォーマンス向上に精力的に取り組んでおり、最近、多数の改善を実施しました。

  1. パンとズームの高速化: 最10倍高速化されたパンとズームにより、スムーズな表示体験が実現します。v28.3以降のすべての公開版で利用可能です
  2. リンクされた画像 (png、jpg、tiff) の操作が大幅に高速化: 画像の配置、変形、効果の適用などの操作が最大5倍高速化されました。v28.7以降のベータ版で利用可能です
  3. アプリケーションの応答の全般的な改善: ドキュメントのバックアップ、スナップ計算などのバックグラウンドで実行されるタスクをより効率的にすることで、コンピューターが他のタスクを実行するためのパワーが確保されます。v28.7以降のベータ版で利用可能です

これらの変更は基礎的なもので、意図しない結果をもたらす可能性があるため、これらの変更を試しSlackまたはこちらで返信することを強くお勧めします。
私たちIllustratorのパフォーマンスをさらに向上させていきますが、そのためにはユーザーの問題点をより深く理解しなければなりません。そのためこの簡単なアンケートフォームにご記入ください。

UserVoiceでこの回答を確認するには「過去の管理者応答を表示する」をクリックしてください。

これを受けて私X(Twitter)で次のように速報をポストしました。

ここでの「やばい」は欠陥が増えて使い物にならないという意味です。今から考えると、人によっては逆の意味に捉えるかもしれませんね)

具体的にどのような点で効果があるのかは、Illustrator UserVoiceの管理者の一人であるEgor Chistyakov氏(この人Adobeの中の人ではありません。ユーザーの一人です)が7月2日(ステータスが変更される前のタイミング。現在2ページ目にあります)のコメントで次のように言っています(コメント中の引用部分は上に書いているので省略します)。

'Effects', I am told, are those involving rasterizing: blur, shadows, all from the 'Photoshop Effects' section.
So Ai now will load these images and compute these effects in parallel, and this seems to be the way the team meant — to gradually switch rails for computation heavy tasks... One Jenga block at a time, to avoid collapse, because HEY, we are using the app, it’s a sailing ship.
I only wish for more! I’d prefer for it to handle PSDs as well, and I hope this gets dealt with next.

Several Beta testers (me involved) run a few tests to compare the document load speed.
For me it varies from 4 to 12 seconds improvement. For others, who have even more links, it was even larger. I encourage everything to try it yourself and share timings.

 

日本語訳。括弧内は私の注釈です。意味が分からないところもあります)

リンクされた画像のところの説明にある)「効果」とは、ぼかしや影など、すべて「Photoshop効果」のラスタライズに関連するものだそうです。
Illustratorはこれらの画像を読み込み、これらの効果を並列で計算するようになりました。これがチームが意図することのようです。つまり、計算負荷の高い処理でレールを徐々に切り替える(ここがマルチスレッド化を意味しているかどうかはわかりません)ということらしい... 一度に1つのジェンガブロックで、崩壊を回避します(この崩壊というのIllustratorアプリケーションの破綻を意味しているのかな? 全部のコードを書き直すのではなく、少しずつ改善していくという意味かと思います)。なぜなら、私たちが使用しているのは帆船のアプリ(大型のアプリという意味なのかと思いますが、他の意味かもしれません。スラングっぽいのでよくわかりません)だからです。
私はもっと欲しいだけです!  PSD も処理できればいいのですが、これが次に対処されることを願っています。

私を含む数人のベータテスターが、ドキュメントの読み込み速度を比較するためにいくつかのテストを実行します。
私の場合、4秒か12秒の改善が見られます。さらに多くのリンク画像を持つ他の人の場合は、さらに大きな改善が見られました。ぜひ自分で試して、タイミングを共有(ここもちょっとわからない)してください。

ここまではよいです。問題はこれより新しいコメントです。原文を載せると長くなるので日本語訳だけ載せますね。抜粋しての意訳ですが、私の方で悪意のある方に訳したつもりはありません。しかし、間違っていると思われた場合は修正しますのでご指摘をお願いします。記載は古い方から順です。一部コメントには注釈をつけています。

  • 数十億ドル規模の企業であれば、最低限のメンテナンスを並行して行いながら一から書き直すことができるはずです。新機能は単に古いコードにパッチを当てているだけです。Affinityの方法で実行してください。彼らは新しいアプリを一から作成しました。 (注:Web版(iPad版)はほぼ一から書いていると思いますので、この指摘は少し違うと思います。Affinityについてはこちらを参照
  • 16CPUのPCで)Illustratorが何かを実行している間、15個のコアは何もしていません。全面的GPUとマルチスレッドを備えた、Photoshop、InDesign、Illustratorの完全な代替品が誰かによって作られたら、私はすぐに乗り換えるでしょう。
  • Adobe に引き続き圧力をかけてください。Androidアプリの不足、コードベースの改善に対する意欲のなさなどを考えると、これ以上長く続けることはできません。
  • Adobeの無策により、私28年ほど忠実なユーザーでしたが、同社の製品から離れようとしています。
  • ユーザーの不満が高まるにつれて、このトピックが最近再び活発化しているのがわかります。この氷河のように遅い進歩について、引き続き声を大にして訴えてくださっていIllustratorユーザーの皆さんに感謝します。Adobeがエンジニアに適切な資金とサポートを提供し、すぐに進歩が見られるようになることを願っています。
  • Adobeは、Illustratorを生き残らせたいのであれば、本当にゼロから始める必要があるようです。私も他の人と同じように、パフォーマンスの悪さにうんざりしています。この問題を優先的に扱う競合相手が現れることを願います。毎日このようなパフォーマンスの悪さに対処しなければならないのは本当にイライラします。
  • Adobeがすべてを解体して最初からやり直さない限り、マルチスレッド化が意味のある形で実現するとは思えません。結局のところ、コードベースは非常に古いのです。また、Illustratorのユーザーベースは他Adob​​eスイートのユーザーベースよりもはるかに小さいため、全面的な解体と書き直しは行われないと思います。 (注:Illustratorのユーザー数が他Adobe製品に比べて多いのか少ないのかは根拠となる数字はありません。まあ、AcrobatやPhotoshopの方が多いのは間違いないと思いますが)
  • おい、このバカなユーザーは、まだマルCPUサポートを求めている。」「ああ、パフォーマンスを改善して、このトピックを解決済みとしてマークしたと伝えればいい。」これAdob​​eの冗談ですか?
  • Adobe、これはまったく「完了」ではありません。ほとんど始まったばかりです。「最大5倍高速」という数字はどこから出てきたのか。私たちは、Illustratorの1つの機能をあちこちで最適化するだけでなく、本当のマルチスレッドを期待しています。
  • ズーム機能は、まだまったくダメで、現代のコンピュータシステムで可能なことと比べるとはるかに遅れています。
  • 28.7をインストールしてテストしました。少し重いファイルをロードすると、まだフリーズし、上部のメニューが白くフェードアウトします。これは今の公開版とまったく同じです。ズームは確かに少し改善されましたがまだ良好とは言えません。Adobeさん、本当に残念です。
  • この新しいパフォーマンスアップデートは、死にかけの豚に貼った絆創膏に過ぎず、誰もが求めているものではないと、私は皆さんを代弁して言えると思います。Adobeには遅すぎます。競合他社Adob​​eを教訓として大きな間違いを避けながらゼロから新しい製品を構築すれば、時間はかかりません。
  • これはアメリカでは「Gaslighting」と呼ばれるものなのでしょうか?(注:ガスライティングは心理的虐待の一種であり、被害者に些細な嫌がらせ行為をしたり、故意に誤った情報を提示し、被害者が自身の記憶、知覚、正気、もしくは自身の認識を疑うよう仕向ける手法。 ウィキペディア

このような指摘を受けて、7月6日(土) 1:12(私宛のメールが送信された時間)ステータスが[Done (In Beta)]から[Started]に戻りました。さらに、7月12日(金)に今の回答に書き直されています。

その後もコメントは追加されていますが、管理者の動きはここまでなので、ここで終了します。

以上が経緯になります。


これと関係あるのかどうかは不明ですが、タイミングよAffinityが「試用期間を6か月に延長する」と発表しました。

Affinityを開発しているのはイギリスSerifという会社なんですが、この会社は前回取り上げたときもそうですが、Adobeユーザーの動きをよく見ていると思います(商売だから当たり前か(^^))。でUserVoiceまで見てるかなあ。たまたまタイミングがあっただけなのか、UserVoiceの動きを見て動いたのか、その辺は謎のままです。