統合されたAffinityはまだベータ版です
あのう、イベントぶつけるのやめてもらえませんかね? Adobe製品とAffinityの両方を同時に確認しないといけないので大変なんです(Figmaも同時期だったそうですがこれはやってないので)。
そういうことで10月31日午前2時(シドニーで開催されるのにアメリカ時間に合わせるのもやめてほしい。会場にいる人が皆徹夜だと思うとぞっとする)に、Canvaのイベントがありまして、統合されたAffinityが発表されました。2時7分ごろ、AffinityのXアカウントでダウンロードページが案内されたので、YouTubeのイベント中継そっちのけでダウンロードページのFAQを読んでいました。
知らない人のために言っておくと、Affinityという製品はイギリスのSerif社が開発しているDTPアプリケーション群です。今回の発表以前は「Affinity Photo 2」「Affinity Designer 2」「Affinity Publisher 2」という3つのアプリケーションからなっていました(以下、「Photo」「Designer」Publisher」と呼びます)。この3本を合わせて「Affinity Suite」という言い方もされます。
「Affinity(親和性、親しみ)」の由来はもちろんAdobeに対するアンチテーゼです。Adobeは製品ごとに開発チームが分かれています(大昔の記事になりますがこちらが参考になります。今は少し違います)。そのため、インターフェイスの共通化や機能の共通化については開発チーム間で協議することになり、なかなか進みません(もちろん複数製品を統括する立場の人もいるんですが)。(余談ですけど、Premier ElementsはPhotoshopチームの担当です。Photoshopにタイムライン機能がありますが、それから発展したものです)。
それに対してAffinity Suiteは3つの製品をシームレスに使えるように設計されていて、PublisherからDesigner、Photoを呼び出すことができ(DesignerもPhotoを呼び出せます)、レイアウトしながらちょっと写真修正、ということが可能です。この呼び出しは、新しいウィンドウを出すわけではなく、切り替えボタンでメニューやツールが変化するものです。
つまり3製品の親和性が非常に高いので「Affinity」なんですね。(実はファイル構造はどの製品も同じです。拡張子だけ変えて立ち上がるアプリケーションを指定しているだけです)
そもそもSerif社自体、Canvaの買収発表時点で社員数95人という小さな会社ですから、Adobeのように製品ごとのチームというのは考えられないんですよね。3製品とも1つのチームで開発しています。それでAdobeに対抗できるアプリケーションを開発しているってことがめちゃくちゃすごいことです。
そこで今回の発表ですが、一番の驚きはやはり無料ってことです。いろいろコメントしづらいところがあるのでここでは書きません。
次の驚きは3製品が統合されて1つのアプリケーションになったことです(以下、「統合Affinity」と呼びます)。上に書いたようにデータ構造は同じで、基本的な機能も多くの部分が同じなので(極端に言えばユーザーインターフェイスだけ変えているとも言えます)統合するのはさほど難しいことはありません。インストーラも従来製品とそれほどファイルサイズが変わっていません(むしろ小さくなっている)。
ファイル拡張子も「.afphoto」「.afdesign」「.afpub」だったものが「.af」に統一されました。今気づいたんですが、テンプレートファイルの拡張子は3製品とも「.aftemplate」で同じだったんですね。これは統合されても「.aftemplate」で変わっていません。
実は私にとって一番の驚きは製品ロゴが変更されたことです。
従来のロゴは武骨で職人気質だけど商売はちょっとわからないというSerif社をよく表していて大好きだったんですが、とても残念です。(新しいロゴの方が好きという投稿もありますので、そこは好み)
ところで、統合されたのでもう「Affinity」とは呼べないはずなのですが(「Unified」と呼ぶべき)引き続き「Affinity」という名称です。ちょっと今確認できないのですが、Affinityのサイトのどこか(Canvaだったかもしれない)に「ユーザーとの親和性」の文言を見かけた気がします(探しても見つからない)。だったらすり替えられた感じでちょっと嫌なんですが(証拠がないのでなんとも)誰か見つけたら教えてください。
新機能についてはすでにあちこちでアップされているのでここでは書きません(私が未検証ということもあるけど)。手っ取り早く知りたい方は、webの森の動画をご覧ください。もっと詳しく知りたい方はToooNの工作室の記事「Affinity V3 の進化・変更点」をお読みください。単なる機能紹介だけではなく、ToooNさんの深い洞察があります。
ただし、新機能に興味がある人は少数派です。なぜならば、今回の発表で「Affinityが無料になった」ということだけでインストールして触ってみた人、または、今まで所持はしていたけれど使う機会がなかったため今回改めて統合Affinityをインストールしたという人があまりに多いからです(私の観測範囲内では)。
Affinityをバリバリ使っているよー、という人は、本当にそうでしょうか? もしかして、Photo、Designerは使っているけど、Publisherは持っていない、持ってはいるけれどまず使わない、という人がかなり多いのではないでしょうか。その一端としてソースネクストは今年の4月から5月にかけてPhoto+Designerの割引キャンペーンをやっていました。Adobeの中のInDesignもそうですが、ページレイアウトアプリケーションは事前に設計が必要なので面倒なのです。そのためPublisherをバリバリ使っている人はそうそういません。
そのような人たちにとっては、今回統合されたことでPublisherにしかない機能を初めて目にすることになります。それはつまり「新機能」ですよね。
例えば、Illustratorでいう「パターン機能」ですが、Designerでは3種類のやり方があります。
A ひたすら並べる
繰り返す要素(以下、「エレメント」と言います)をコピーして、ひたすら縦横に並べる方法です。面倒なことこの上ないです。
B グラデーションツールでビットマップを配置
エレメントをDesignerで作成してビットマップ形式で保存します。次にパターンを配置したい図形を選択してグラデーションツールを選択、タイプを「ビットマップ」にしてファイルを配置します。(ビットマップなので拡大しすぎに注意)
※グラデーションツールは統合Affinityでは「塗りつぶしツール」と名称が変更されました。ビットマップを配置するのに「グラデーション」はおかしいということかもしれませんが、実は「塗りつぶしツール」は以前からあります(バケツのアイコンはPhotoshopでもおなじみですね)。混乱の元なのですぐに修正が必要です。
C アセットを塗りのカラーに設定する
エレメントをDesignerで作成してアセットに登録します。パターンを配置したい図形を選択しておいてから、アセットをカラーパネルの塗りにドラッグ、もしくはグラデーションツールを選択してアセットをクリックします。この方法は内部的にはアセットをビットマップ化するのでBと同じく拡大しすぎに注意です。この方法が紹介されている動画は、わりと有名なYouTubeチャンネルらしいですね。
以上3つの方法はいずれも修正が面倒です。エレメントを修正したらパターンは何もせずに即変更されるのが一番なのですが、そうはなっていません。
ところが、Publisherの既存機能である「データ結合レイアウト」を使用するとそれが実現できます。詳しい説明は省きますが、Illustratorでいう「リピートグリッド」です。これは作成・編集できるのはPublisherだけ(エレメントの変更はDesignerでもできます)なので、Publisherを持っていない人にとってはまさに「新機能」なんです。
実は「データ結合レイアウト」は元々はその名の通り可変データを配置して大量の名刺を一気に作成するなどの自動化のツールなんですが、起点のコマを複製することを利用してパターンに見せかけることができます。それを利用して私が作成・販売しているものが「Affinityパターン素材(和柄)」です。販売開始してから2年8か月経ちますが、いまだにひとつも売れてません。千鳥格子が入っていないのが悪かったのかな(笑)
やっとここから本題です。
Canvaの考え方、Serifの考え方はいろいろあるんだろうと思います。それに対して既存ユーザーは不安になっていました。前述のToooNさんの記事(その前の記事「Affinity V2 の販売停止と炎上、その未来」も)もそうですし、@harycurlさんのQiitaの記事「Affinityはどこへ行こうとしているのか」「販売停止中のAffinity 2、ベータ版がアップデート」もそうです。私はというとIllustratorが炎上しててそれどころではなかったのですが(笑)
しかし1か所だけ記述があります。「Adobe CCユーザー必読! Creative Cloud Proプラン/Standardプラン」の最後に次のように書きました。
そういえばAffinity Suite(省略)はしばらくキャンペーンやってないですね~。あの会社のことですから、このタイミングでキャンペーンを打ってくることが予想されますね。こちらの方も情報収集しておきましょう。
Serifの営業戦術として、Adobeからユーザー離れが起きようとすると必ず割引キャンペーンをやっていたものです。今回もAdobeが実質値上げになったので割引キャンペーンをやるものと思っていました。(実はこの私の観測は間違っていて、日本では8月1日以降の契約から値上げなんですが、アメリカでは6月17日から値上げだったんです)。
調べてみたら去年のブラックフライデーのキャンペーン(2024年11月20日~2024年12月10日)以降、割引キャンペーンは行っていませんでした。(ですから無料化が決まったのはこれ以降になります)。
私が不安を感じ始めたのはDiscordの開設です。そこにも書いていますが、Discordでは従来のフォーラムにあった役割がごっそり抜け落ちていて、ユーザーとSerifをつなぐ道が閉ざされてしまったのです。Discordに入っても新製品の情報はありませんし、Serifの担当者は「そういう憶測は大好きです」と茶化してまともに答えません。そのためDiscordは荒れていきます(ToooNさんの記事に詳しい)。これは双方にとって不幸なことです。
そして、新製品を秘密にしたことには、もう一つ重大な問題があります。それはベータ版が提供されなかったことです。今までのAffinity Suiteはベータ版が提供されて、ユーザーがそれをテストすることで完成品に近づけていました。マイクロソフトなんかはCanaryチャネル→Devチャネル→ベータチャネル→リリースプレビューチャネルと、4段階の状態で試せるようになっており、そこで多くの問題を事前に排除するようにしています。(Adobeのベータ版は半分テクニカルプレビューの要素があるのでテストする価値は低いんですが)。プログラムにはバグはつきものですから、必ずベータ版の提供が必要です。
今回、ベータ版が提供されなかったことで、「塗りつぶしツール」が2つできたり、一部のWindows環境ではそもそも起動しない(ToooNさんの記事、@harycurlさんの記事)という、とんでもないバグが生じでいます。
私はこれは結果的にCanvaの失敗だと思っています。Webアプリケーションなら何かトラブルがあっても開発側でソースを直せばすぐに修正が反映されますが、ダウンロード・インストールするアプリケーションでは開発側で直してもユーザーにアップデートしてもらう必要があります。そのため、できる限りバグのない状態で提供しなければなりません(他人事じゃないですよAdobeさん)。
ですからユーザーは、現在提供されているものはベータ版であり、これから数回アップデートされないと使えるものではないということを知らなければなりません。これがこの記事で私が一番言いたいことです。(前の段落の繰り返し)
最後に。CanvaとAffinityの連携は非常にいいことです。今回3つの連携がありましたが、この連携は引き続き強化していってほしいですね。
え? 2つしか知らない? 「AffinityからCanvaへの書き出し対応」「AffinityへのCanva AIの実装」はToooNさんの記事にもあるからわかるけど、あとひとつが分からない。なるほど。
では教えてあげましょう。Canvaにアクセスして、「アカウント」→「設定」→「個人のプライバシー」を順にクリックしてください。次のURLですね。
https://www.canva.com/settings/privacy-preferences
そこにあるでしょ?




