Affinity Publisherで縦組合成フォント(5)合成フォントっぽいこと

2019年09月22日

合成フォントというのは、実際にそのようなフォントがあるわけではなくて、特定の文字種(あるいは特定の文字)に対してフォントやその他の書式を変更することです。たとえば、日本語部分は和文フォントを使うけれども欧文の部分は(和文フォントの従属欧文ではなく)欧文フォントを使って組むといった場合ですね。

こういった場合だと日本語フォントと欧文フォントは元々成り立ちが違いますから、文字数が少ない方のフォント(たいがい欧文フォント)の方で文字サイズやベースラインを調整したりする必要があります。それを毎回行っていると大変なので、日本語組版ソフトの機能として、文字種と書式の組み合わせをあらかじめ作成して名前を付けておくことができます。そうして作成された組み合わせを、あたかも新しいフォントが作成されたように扱う仕組みを合成フォントといいます。

Webでも合成フォントの考え方はないことはないです。比較的単純なものでは、CSSでフォント指定をする際に欧文フォントを和文フォントの前に指定する手法、より複雑な手法としては@font-face規則を使用して文字種とフォントの組み合わせを作成する方法があります。しかDTPソフトに比べると、文字サイズの調整やベースラインシフトができなかったりするので、私からするとそんな中途半端なことして何が楽しいの? ということになります(個人的な感想です)。

さて肝心Affinity Suiteですが、日本語に対応していないので当然合成フォントにも対応していません。合成フォントが日本独自かどうかまでは知りませんが、合成フォントができる背景には、日本では漢字、かな、アルファベット、アラビア数字など由来の異なる文字を同時に扱うことが当たり前になっているという文化があります。だから日本語組版は面倒くさい、でも逆にそれを極めたくなる魅力があるわけです。

Affinityのフォーラムを覗いても合成フォントの要望はありませんので、多分実装はされないでしょう。ただ、正規表現スタイルの要望は多くあります。正規表現スタイルが実装されるとそれを利用して合成フォントっぽいことができるので、大いに期待しています。ただ、それまでのつなぎとして、「検索して置換」機能を使っているわけです。


さて、前置きが長くなりましたが、元々アンチゴチの話をしていました。今回は「検索して置換」機能を使って、漢字はゴシック、かなは明朝という、アンチゴチの代わりになるものを作っていきます。

元となる書体MacとWindowsの両方に搭載されている游ゴシックボールドと游明朝デミボールドを使います。ここでも「検索して置換」の「正規表現検索」を使いたいので、ベースとなるフォントを游ゴシックボールドとし、そこからひらがなとカタカナ、一部の記号を游明朝デミボールドに変更します。漫画のセリフで使われることを考えると圧倒的に仮名の方が文字数が多くなるのですが、仮名をベースにすると漢字のコード範囲が広すぎて面倒なのです(Affinity Publisherで日本語処理(4)和欧文字間を参照)。

例文は『銀河鉄道の夜』です。会話のところなんですが鍵括弧とルビは取っています。

この状態は、フォントを游ゴシックボールドにして、基本的な設定を終了しています。基本的な設定についてはAffinity Publisherで日本語処理(6)デフォルト設定は使ってはいけないを見てください。加えて、行揃えを中央にしています。この設定を段落スタイル「漢字」として登録し、全てのテキストにスタイルを当てています。

ここから仮名のところを游明朝デミボールドにしていくんですが、いきなり「検索して置換」は使いません。上で書いたように、合成フォントっぽいことをしようとするときは単にフォントを変えるだけではなく、読みやすくなるようにバランスを調整しなければなりません。ですから、先に文字スタイルを作成しておいて、仮名に対してはその文字スタイルを適用するようにします。

まず、適当に仮名のところを選択して、フォントを游明朝デミボールドにします。そして、その状態で「新しいスタイル」をクリックします。なお、図Windowsのものです。Macはフォント名が日本語表記になるんですが、Windowsでは英語表記になっています。これは機能要望を出しておかないといけないところですね。

ダイアログが開きますので、スタイル名を付けます。Windowsの場合だと、ここに日本語を直接入れられないので、私はエディタで入力したものをコピー&ペーストしています。今回は「かな用」にしています。またベースのスタイルは[スタイルなし]にしておいてください。

では置換していきます。

検索文字列はひらがな([ぁ-ゖ])、カタカナ([ァ-ー])、および一部の記号です。どのような記号を含めるかですが、句読点は決まっているんですが、それ以外は使うフォントによって好みで入れてもいいかなと思います。すでにあるアンチック体を見ても、メーカーやフォントによって多少含まれている文字が違っているみたいです。

実は今回の例題の場合、Windows版の游ゴシックボールドOpenType機能には対応していないという重大な問題があります。Mac版の游ゴシックボールドOpenType機能に対応しているんですよ。また、游明朝デミボールドMac、WindowsOpenType機能に対応しています。どうしてこうなった、と言いたいところですが、仕方がないのでなるべく游ゴシックの記号類を減らす方向で考えます。

ですから、記号類は句読点に加えて、前に記事で言及した「~」と例文中にある「…」を含めたいと思います。以上から検索文字列は

[ぁ-ゖァ-ー、。~…]

にします。置換の書式で文字スタイル「かな用」を指定します。

あとはいつも通り「検索」「すべて置換」を実行します。結果はこうなります。

続いて、前の記事で行ったように、縦組と横組で異なる字形の文字に対して代替字形を適用します。游明朝の場合は次のようになります。

1 ゕゖ‥
2 ぁぃぅぇぉっゃゅょゎァィゥェォッャュョヮヵヶー…、。「」『』【】〔〕
3 )[]{}
4 〗~
5 ヶ〘〙〝
6
9
11 —〈〉
12
グリフブラウザから選択
字形を持っていない

このフォントの場合はばらけてて全部するのはとても面倒くさいです。だから使われている文字がある「代2」だけ行います。

検索文字列は

[ぁぃぅぇぉっゃゅょゎァィゥェォッャュョヮヵヶー…、。]

で、置換のフォーマットを

で置換します。文字スタイルは残しておいて構いません。

そうするとこうなりました。

基本の手順としてはこれで終了なんですが、仮名が細いのが気になりますよね。太いフォントに変えるという手もあるんですが、明朝体の太いのは、まんべんなく太いというわけではなくて、太さのメリハリを強くしている感じになります。ですからフォントを変えても細いところは細いままだったり、フォントによっては逆に細くなったりしています。今回は仮名のほうの文字にフチをつけることによってバランスを改善していきます。

まず、調整に使うかな部分を選択し、カラーパネルでフチの色を設定します。

次に線幅を調整します。

今回0.2ptにしました。当然文字サイズによって変わるので、実際に使う文字サイズで確認します。線幅を決めたら、この設定を文字スタイル「かな用」に反映します。テキストスタイルパネルを開いて「かな用」のメニューから「"かな用"を更新」をクリックします。

すると「かな用」の文字スタイルが当たっている箇所が全て更新されます。

さらにもうひとつ。游明朝は現代的なフォントなので仮名が大きく作ってあります。私は少し小さい方が好みなので、文字サイズ95%にします。

そして先程と同様に文字スタイルを更新します。仮名を少し小さくしたのでアキが増えます。そのため、段落スタイル「漢字」の行送りを少し小さくしました。

結果はこうなりました。

一律でできるのはここまでです。だいぶ良くなったんじゃないかなと思います。これで気に入らないところがあれば、あとは一文字ずつの調整になります。ですので、今回はここまでです。